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ロートレアモンからの便り - その4 20141216掲載

ロートレアモン伯爵著 『マルドロールの歌』 第1の歌 第5節

 おれは見てきた、わが生涯を通じて、たった一人の例外もなく、肩身の狭い人間どもが、たくさんの愚かな行いをすることを、同類を愚かにし、あらゆる手段で魂を堕落させるのを。奴らは己の行為の動機をこう呼ぶ、栄光と。この有様を見て、おれは他の奴らと同じように笑おうと思った。だが、この奇妙な真似は不可能だった。おれは良く切れる刃の付いたジャックナイフを手に取り、唇の合わさっている処の己の肉を切り裂いた。一瞬、目的は達せられたと思った。おれは鏡の中を覗き込んで、己の意志で傷つけたこの口を見つめた! 間違いだった! しかも二つの傷口から大量に流れ出る血が、他の奴らの笑いと本当に同じなのか見分けるのを妨げた。だが、少し見比べた後、おれの笑いは人類どもの笑いとは似ても似つかないことがよく分った、つまりおれは全く笑っていなかった。おれは見てきた、醜い頭と暗い眼窩の中に落ち窪んだ眼をした人間どもは、岩よりも硬く、鋳鉄よりも強固で、サメよりも残忍で、若者よりも横柄で、犯罪者よりも激高し、偽善者よりも背信で、この上なく奇妙な道化役者で、神父のように強情で、外見には何も表さず、地でも天でも最も冷たい存在をも凌ぐのを。奴らはモラリストたちが己の心を明るみにだすのをうんざりさせ、彼らの上に天から容赦ない怒りを落とさせる。おれは見てきた、ある時は、奴らが一斉に、母親に抗うすでに邪悪な子供の拳のように、おそらく地獄の悪霊にでも駆り立てられ、この上なくたくましい拳を天に向け、氷れる沈黙の中、眼には痛ましい悔恨とともに憎悪が溢れ、不正と恐怖に満ちた胸に秘めた忘恩の茫洋たる瞑想を、勇気を持って口に出すことも無く、慈悲の神を憐憫の情で悲しませるのを。ある時は、一日中、子供時代の初めから老年時代の終わりまで、生きとし生ける全てのものに逆らい、己にも逆らい、神の摂理にも逆らい、非常識な信じがたい呪いを撒き散らしながら、女子供には売淫させ、恥じらいに捧げられた身体の部分を辱めさせる。その時、大海原は海水を持ち上げ、深海の底に板子を飲み込む。嵐が、地震が家々をなぎ倒す。ペストが、様々な疫病が祈る家族を皆殺しにする。だが、人間どもはそれに気付かない。おれは奴らがこの地上での振舞いに顔を赤らめたり、青ざめたりするのを見るには見てきたが、ほとんどなかった。嵐よ、竜巻の姉妹よ。おれはその美を認めないが、蒼い天よ。偽善者の海よ、おれの心の似姿よ。謎を秘めた大地よ。星々の住人よ。全宇宙よ。全宇宙を壮麗に創りし神よ、おれが嘆願するのはおまえしかいない。善良なる人間を誰かひとり、このおれに見せてくれ! ・・・・・・いや、それより、おまえの恩寵でおれの生まれながらの力を10倍にしてくれ。この化け物を目の当たりにしていると、おれは驚愕のあまり死にそうだ。そうでなくても人は死ぬんだ。

翻訳:門司 邦雄(Parolemerde 2001)
2013

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