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ロートレアモンからの便り - その1 20031020掲載

おれは見てきた、我が生涯を通じて、一度の例外も無く、狭い肩幅の人間どもが、数多い愚かな行為を行うことを、奴らの同類を愚かにして、あらゆる手段で魂を堕落させるのを。奴らは、この行為の動機を栄光と呼ぶ。

ロートレアモン著「マルドロールの歌 第1の歌」より

翻訳:門司 邦雄(Parolemerde 2001)

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 既に30年ほど前だと思うが、ドーキンスの「利己的な遺伝子」のなかにひとつの種グループ内の安定性で、「攻撃型」「反撃型(攻撃されたらやり返す)」「非反撃型」の3つの遺伝子グループのシュミレーションを行うと、多数の「反撃型」と少数の「攻撃型」「非反撃型」の割合でバランスが取れる進化的安定ということが書かれていた。

つまり、攻撃を受けた場合に、やり返すことが正しい。正当防衛、聖戦という概念は、こうした本能的な部分から発生した概念、信条と推定できる。

しかし、逆にこれを利用して、攻撃を受けた状態を少数の「攻撃型」が架空で作り上げ、マスメディアで多数の「反撃型」を洗脳すれば、容易に聖戦が引き起こせる。

かってのソ連邦というアメリカ合衆国に対する反対勢力が消滅した今、いかに簡単に大規模な戦闘が実現できるか、この第2次湾岸戦争は証明していると思う。

問題は、劣化ウラン弾に象徴されるように、そして温暖化に象徴されるように、人類の破壊力が自然の治癒力を遥に上回ったということだろう。そして、過激な淘汰を繰り返して安定を得るほどの時間が人類に残されているかだと思われる。

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 既に21世紀になって3年目が終わろうとしている。20世紀の後半は、大戦の無い半世紀だった。その間、人類の生産力が大幅に向上し、現在の世界的なデフレの原因となっている。おそらく、生産・流通・貯蔵・消費の体制と、人口抑制により餓える人間のいない地球も、一時的かも知れないが、数字的には可能ではないかと思われる。しかし、富は偏在し、餓えも存在する。牛肉を食べずに豆を食べれば、どれだけの人が生き長らえるか…

というテーマは、既に宮沢賢治が書いていた。(ビジテリアン大祭)

 20世紀後半で、とりわけ大きく変わったことはメディアの肥大ではないだろうか。特にテレビの発達、そして、インターネットの発達がある。莫大な資金を必要とするテレビが、権力や大企業と結びつくのは当然の帰結であり、マルクス的な、生産構造という下部構造を反映した上部構造である文化という基本概念から、メディア空間が消費生活、文化、政治に直接影響を与える体制と変化してきた。アメリカと日本という20世紀後半で最も豊かになった2大国により、テレビというマスメディアに依存した新しい政治体制が生まれた。こうした流れは、カルチュラル・スタディという新しい学問を生みつつある。インターネットは、テレビの覇権を浸食しつつあるが、まだ、テレビの地位を揺るがすまでには至っていない。21世紀をイスラム世界への侵略戦争で始めたジョージ・ブッシュ、その疑わしい選挙戦は、情報ハイウェイを提唱するゴア陣営、つまりインターネットと、テレビの戦いでもあったように思われる。軍とマスメディアに支持を取り付けたブッシュが、金融界とマスメディアに支持を取り付けた小泉日本の参戦を得て、イラクへの軍事戦略を行った。大量破壊兵器保持という虚偽の事由により、主権国家に侵略したことは、両国のマスメディアでも司法でも追求されていない。新しい形の独裁的な政権が21世紀の歴史をつくり始めた。日本では、現在、マスメディアと国家はその独占を維持するために、国策として地上波デジタル放送への切り換えを強行している。国家的な巨大な設備投資がなぜ必要なのかは明らかにされていない。皮肉なことには、アナログよりも届き難いデジタル地上波で、国土を網羅するために、CATVも併用するという。独占的覇権を維持するために、ケーブルと衛星ネットテレビという選択肢は取れないのだろう。民営化は郵便配達に限定し、NHKは手付かずに残されるだろう。

 911から始まり、イラク侵攻当時アメリカのテレビは、まるで聖歌隊に囲まれたミサの神託のようにブッシュの演説が放映された。日本では、小泉の意味不明の発言が、勅(みことのり)のように繰り返された。北朝鮮の拉致者は、日本の参戦を誘導するために、言葉の踏絵の広告塔として利用されたのではないだろうか。イラクで英語版の「おしん」を流すというNHKは、日本の驕りと傲慢を体現しているだけだろう。

ひとりの指導者に権力を委ねる恐怖から自由になることを目指したように見えた20世紀後半。今は、地球上で最も豊かな2つの国民は、マスメディアに脚色された幼児的な指導者の魅力に将来を委ねたくなったのだろう。

Parolemerde2001
2003年10月20日

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