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Blog - 科学的

ロートレアモンからの便り その3 20040325掲載

老いたる大海原よ、君は自己同一性のシンボルだ、いつも、君は君自身なのだ。君は、根本から変わることは無い、どこかで波が荒れ狂っていても、どこかは完全に凪いでいる。君は人間どもとは違う、人間どもは、2匹のブルドッグが首に噛み付き合おうとするのを見ようと道に立ち止まるのに、葬列が通り過ぎるときには立ち止まろうともしない。朝は機嫌が良いのに、夕べには不機嫌になる。今日笑えば、明日は泣く。老いたる大海原よ、ぼくは君を讃えよう。

ロートレアモン著「マルドロールの歌 第1の歌」より
翻訳:Parolemerde2001

 この部分の海の認識は、「生態学キーノート」に書かれた海洋表層環境の「空間的,時間的不均一性」の部分に繋がる認識だと思われます。
「競争者間の勝負の均衡がたえず変化しているという事実によって,「プランクトンのパラドックス」―すなわち,構造的に単純な海洋表層の生息場所に多数のプランクトン種が永続的に存在しうるという逆説―が説明できると考えられている.温度,光,酸素,養分量の変化を伴いながら,毎日あるいは季節的にたえず変動する環境は,いかなる種の均衡状態をも成立させないだろう.」

 ロートレアモンがこの詩を書いた背景には、19世紀後半ヨーロッパの神あるいは自我の神話の崩壊があるのではないでしょうか。多様性と同一性を同時に実現する海(大自然)に対し、その時々の感情に左右されているにもかかわらず、自我の主体性を信じる人間の思い上がりが対比されています。絶対者に対する疑問は逆転して、唯一の主体・意識ある自我への疑問となります。ランボーは「見者の手紙」の中で「我思うではなく、我は(だれかに)思われる」というデカルトのパロディを表明しています。
日本ではニホンザルの群れの主導的地位のサルをボスザルとは呼ばずにアルファオスと呼ぶことになりました。これは人間の主体的指導者・権威者と同一視されないように、擬人化されないようにという配慮です。しかし、ロートレアモンやランボーが書いたように、人の主体的自我意識は、それほど信頼できるものなのでしょうか。主体的指導者・権威者、たとえば教祖も王も大統領も、実はアルファヒト(アルファオスと、より少ない頻度でアルファメス)かも知れません。公平無私な官僚の支配する社会主義システムは、公平無私な個体が存在しないために崩壊してきました。自由経済システムの政治形態である民主主義は、思想的(理想的)には構成個の意識の集計システムで、古代ギリシア時代でも限られた地域の豊かなある階層では機能しましたが、経済がグローバル化した今日でも、世界を説得する普遍的な価値シンボルとしては機能していないようです。民主主義が機能するための社会基盤・経済基盤の基準値と、それを地球的に実現することが資源的に可能であるか否かも、まだ見えていません。そのため、アメリカ合衆国のイラク侵攻には、「文明の衝突」、「テロとの戦い」、「WMD(大量破壊兵器)」、「危険な独裁者の追放」、覇権国家の「自衛権」と、玉虫色の御旗が振られてきました。地球を覆う人類という「大海原」の中で、アメリカ合衆国をひとつの群体という点から眺めれば、テリトリーの維持・拡大のための環境均一化への希求なのかも知れません。
人類の歴史では、産業革命・工業化により、経済システムと結びついた政治システムあるいは思想が一般化する前までは、アルファヒト(その遺伝子を受け継ぐ子孫、アルファイエ)の権威を永続化・普遍化するために、神が描かれてきました。私は一神教が多神教より高度な宗教であると習った覚えがありますが、それがいつ、どの教科だったのかは、思い出せません。アルファヒトがひとつの絶対カミをいただくことにより、群れの統制強化と他の群れあるいは生存環境への軍事力強化を行ってきました。そして、今日でもカナンの地のヒトのテリトリーの戦いは、宗教の鎧を着ています。
私は、生物的に豊かな地は、自然発生的な多神教が維持されると考えています。ロートレアモンの書く絶対者もランボーが書いた「魔神(精霊)」(イリュミナスィオン)も単数でした。800年の歴史を持つ霜月まつり(取材地、長野県下伊那郡上村・程野)では、八幡社の中で、多数の神々が名前を連ねる神名帳が読み上げられます。そこでは、釈迦が梵天として日本の神々に加わります。聖徳太子がその源なのか私には判りませんが、生命豊かな自然に恵まれた東アジアの叡智がそこにあると思います。

注)
霜月まつり問合せ先 〒399-1413 下伊那郡上村754-2 上村役場 総務課
「遠山谷の民俗」という詳しい資料が上村民俗誌刊行会により出版されています。

by Parolemerde2001

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